使える起承転結

同じ話題が続いてしまっているので、ちょっと毛色の違うことが書きたくなりました。そこで今回は「起承転結」について考えてみたいと思います。

ビジネス文書の書き方や、小論文の書き方の本は沢山あります。そういった本には大抵、よほど古いものでない限り、そのような「実用的文章」には「起承転結」のフォーマットは使うべきではない、と書いてあります。文書全体の構成では、確かに私もそう思います。

しかし、部分的にであれば、この起承転結が使える、と指摘している本があります。『理科系のためのはじめての英語論文の書き方』 廣岡慶彦著 (ジャパン タイムズ)です。

この本の「第三章 実践編 論文各セクションの書き方のコツ」では、「Introduction」つまり本題への導入部については「起承転結の要素を盛り込まなくてはいけません」と説明されています。同書では、

 「起」論点の評価
 「承」歴史的変遷
 「転」研究の新奇性
 「結」研究の貢献度

を(この順に)書いていくと、良い導入部ができる、とされています。

この本では、理科系英語論文の書き方について解説してあるわけですが、私は、このフォーマットは、より一般的な「実用的文章」にも大変有効だと思います。

そこで試みに、この「起承転結」のフォーマットを使って、「桃太郎に鬼を退治してもらう」企画を立案する場合の、その導入部分を書いてみたいと思います。作成するのは、鬼から国民を守ることを職務とする何らかの機関に「桃太郎を起用した鬼退治」の企画を説明するための書類のイントロダクション部分です。書類の目的は、おそらく、だから予算がほしい、とか、実施に必要な許可証を発行してほしい、とかいうようなものだと思います。何それ?って感じですが、まあ、あくまで架空の例ということで。ちなみに私は桃太郎という話の詳細(?)を知らないので、ほとんど空想で書きます。


1 Introduction

(「起」論点の評価)
鬼が島の鬼は、武力や魔術を行使して人間の生命や財産を脅かし、人間社会の平和と秩序を一方的に乱しており、その暴力行為の鎮圧(以下「退治」と呼ぶ)は緊急かつ重要な課題である。本文書では、従来とは異なる、より有効な、鬼退治の方法を提案する。

(「承」歴史的変遷)
鬼に関する、長期にわたる研究により、鬼が島の位置は特定され、また、鬼が使用する言語の理解も進んでいる。これらを活用して、人間側からの平和的対話による交渉が、近年、数多く行われた。しかし、それらの交渉は、鬼の好戦的な性格を刺激してしまう結果となり、鬼の暴力行為は縮小されず、むしろ拡大してしまった。そこで最近では、望ましくはないものの、武力を用いた退治の試みも行われ始めた。しかし、この試みにより双方に既にかなり大きな被害が出ているにもかかわらず、効果は不充分であり、鬼の暴力行為はおさまっていない。

(「転」新奇性)
この状況を打開するため、我々は、桃太郎氏を起用した鬼退治を提案する。岡山県在住の桃太郎氏は、桃から生まれたことに由来する特異な身体的能力を有している。さらに特筆すべきは、いわゆる超感覚知覚(ESP)能力を持っているとの報告がある。また、養母からの「きびだんご」の供給を利用して、本提案の鬼退治に不可欠な非人間的能力を有する人材(て、人じゃないけど)を作戦行動の過程で招集可能であると期待される。以上の特性を利用して、桃太郎氏自身を含む「異能力者」からなる部隊を編成し、下記の2. Methodで詳述するような作戦行動を実施する。この作戦行動により、これまでの「対話」および「武力」のいずれとも異なる「異能力」による鬼退治が可能である。

(「結」貢献度)
ここで用いられる異能力の性質は、作戦行動の過程で人材を招集する必要があるという理由により不確定である。しかし、これまでに得られている断片的な知見を総合すれば、異能力の使用によって、武力のような直接的、物理的な暴力を用いずに、鬼の攻撃力を無効化し、かつ好戦的な性格を改善できると期待できる。従って、桃太郎氏を起用し、異能力を用いた作戦行動を実施すれば、従来の、武力を用いた退治に比べ圧倒的に小さな被害で、かつ、対話的手法に比べ遥かに有効な鬼退治が行える。

2. Method

うーん。長い割に、あまり面白くないですね。スミマセン。まあ、それはともかく、確かにこの場合、起承転結のフォーマットは不自然な感じではありませんし、説得の手順としても、わかりやすいように思います。ただ、問題点を挙げるとすれば、これを書いているときもそうでしたが、「転」と「結」、つまり新奇性と貢献度をどこで分けるか、というのが、私には少しわかりにくく、難しいと感じました。

というわけで、理科系英語論文に限らず、この程度の内容でも、本題への導入の部分を書くのは結構難しく、時には本題そのものを書くことより難しい場合さえありますので、「起承転結を使おう」といったような明快な指針は大変参考になると思います。

それに加えて、というか、話がちょっとそれますが、この廣岡氏の著書を読んで思うことは、みんなが「それは使えない」といっている物事の新しい使い方を提案するというのは、とても格好良い事である、ということです。できれば私も、何か見つけて、提案してみたいものです。

なお、この本は、平易な言葉で論文を書く上での重要事項が解説してあり、そのような文書を作成する際に、大変参考になります。また、最近(主観ですが)バイオ系で、仕事術というか、研究術の本が沢山出版されているように思うのですが、この本は、論文の例が主に物理系なので、「私バイオじゃないし」と思っている方にも良いと思います。